●異空間
真っ暗な異空間を飛行しているクーパーから、唐突に第3話はスタート。
超高速で移動しているせいか、クーパーの全身はブルブルと大きく震え、背後を星々が飛んで行く。
ニューヨークのガラスの箱を閉めだされたあと、彼はずっとこの空間を飛行しているようだ。顔つきは無表情、空中姿勢はまるで手足が伸びるゴム人形みたい。笑える。
スピード感こそ違うけれど、Maya Derenの『The Very Eye Of Night(1958)』を彷彿とさせる映像になっている。
やがて、クーパーは紫色の煙の中へ取り込まれる。
そのあと、画面全体が濃い紫色のフィルターで覆われてしまう。
異空間を抜けて、縦横10メートルくらいの〈バルコニー〉にクーパーは落下する。
そこはほんとうに無機質なバルコニーだ。もっと正確に言うと、巨大な建築物の外壁の一部が引っ込んで、テラスかバルコニーのような場所になっているのだ。
その建築物は海のそばに建っている。クーパーはその場所からしばし呆然と海を眺める。
砂浜や島、岩礁などは見えない。
ただ、沖の方からは大きな波が次から次に押し寄せている。
背後の壁に扉があることをクーパーは発見する。
彼はそこから建物の内部へ侵入する。
扉の奥は部屋になっている。
火がついた暖炉とソファーがある。
ソファーにはヴェルベットのドレスを着た盲目の女が腰掛けている。女の瞼はメクラウナギのように塞がっていて、なにも見えない。
演じているのは裕木奈江だ。映画『インランド・エンパイア』に続いて、リンチが彼女を『ツイン・ピークス』でも起用したことが、すでに日本でも話題になっている。
彼女のことをツイン・ピークス初の日本人キャスト……と紹介する記事もいくつか見かけたけれど、実際はそうではない。
シーズン2(第9章ほか)に、マック・タカノという日本人俳優がマフィア役で出演しているし、アジア人となると、シェリフの恋人ジョセリン・パッカード役のジョアン・チェンもいる。
あ、あと、謎の東洋人「タジムラ」というキャラクターも出てきたっけ(笑)。
クーパーは女に近づく(ちなみにこの紫の部屋のシーンでは、画面がたえずストップモーションのようにカクカクとした動きをしている)。
これはマーティン・アーノルドという映像作家による映像作品。
彼はハリウッド黄金期のクラシックフィルムに細かいエディットを加えて作品化する。たとえばこの『Pièce Touchée』はわずか8秒の素材を15分に拡張した作品だが、音響の使い方なども含めて、リンチのこのシーンにそっくりだ。
目が塞がっている女は腰掛けたままで、傍らに立つクーパーの両手を取る。
クーパーに何かを伝えたいそぶりだ。
「ここは、どこなんだ?」
クーパーが彼女より先に質問する。
女は彼を自分の傍らに座らせ、指先でクーパーの顔に触れ、その表情を読み取ろうとする(裕木奈江がTwitterで明かしたところによると、脚本には”Eyes Sewn Shut”とあったそうだ。つまり目が見えないのではなく、瞼を縫い合わされてしまっている、ということか)。
彼女は何か言葉を話そうとするが、ただ空気が漏れるような音がするだけ。
あるいは空気が漏れるような音でしか会話ができないみたい。
突然、重い金属の扉を力強くノックするようなドンドンドンという大きな音が響く。
クーパーは首を振って、音の出処を確かめようとする。
しかし、女は右手の人差し指を口元にやり、「シーーッ(黙って)」というポーズをする。
クーパーは壁に嵌めこまれた、金庫の扉のようなものに注目する。
扉の上には〈15〉と書かれた文字板がついている。
それに触れようとするクーパーを必死で静止する女。また大きな打撃音が鳴り響く。
女はクーパーを部屋の外へ連れ出す。
部屋の奥に小さなハシゴがあり、ふたりはそこを登っていく。
すると、屋根の上に出る。そこは宇宙のような空間だ。
バルコニーも、巨大な建造物も、海も消滅し、クーパーたちがいた場所は単なるちっぽけな〈箱〉に変化している。
その箱が宇宙空間に静止している。
屋根のうえには大きな円筒型のオブジェのようなものが乗っている。
女はオブジェの側面についていた大きなスイッチを切り替えるが、彼女は感電。そのショックで〈箱〉から落下し、宇宙空間に消えてしまった。
〈箱〉の上に取り残されたクーパーは、呆然とした顔つきで宇宙を眺めている。
すると、画面右から左へ、横スクロールで大きな顔が現れる。
このシーン、どこかで見たような……。
そう。リンチの長編処女作『イレイザー・ヘッド』の冒頭シーンをリメイクしているようだ。
男の顔にも見覚えがある。そう、ブリッグス少佐だ。
不良少年ボビーの父親。第2話の後半で、悪クーパーと偽(?)フィリップが対話するシーンに名前が出てきた。
黒クーパー「あんたは〈どこでもない場所〉にいるのか?」
偽フィリップ 「ブリッグス少佐と会ったみたいだな」
黒クーパー「それをなぜ知ってる?」
宇宙のような場所でふわふわと漂っているブリッグス少佐の首は、クーパーに向かってひとこと呟く。
「ブルー・ローズ」
ブルー・ローズ───青いバラ。
つまり、自然界では絶対に存在しない色のバラ……というところから、〈不可能、不自然なもの〉という意味で解説されている英語表現だ。
ツイン・ピークス劇場版のなかで、テレサ・バンクス事件のことを……
「This is one of Cole’s blue rose cases=これ(テレサ・バンクス事件)は、コールの未解決事件のひとつだ
と説明するセリフがあった。
この〈コール〉とは、もちろんゴードン・コールのことだ。リンチ自らが演じていた、耳のと追いFBIの捜査主任。
また、劇場版の冒頭に出てくる、ブルー・ローズに関わる謎の女リリ(真っ赤な髪/全身赤い洋服)も、胸に青いバラを差していた。
ブリッグス少佐が宇宙に消え、クーパーはハシゴを下りて、ふたたび部屋に戻る。
部屋の中は先程までの紫色ではなく、自然なトーンに戻っている。画面もカクカクしていない。
さっき〈15〉と書いてあった文字板の上にテープが貼られ、マジックで〈3〉と書きなおされている。
時刻で言えば、〈15〉も〈3〉も午前と午後の違いはあれど、同じ時間を意味する数字だ。
そして、暖炉の前にさっきと別の女が座っている。
髪型はボブで、赤いサマーセーターのようなものを着ている。
女はクーパーに気づき、ゆっくり振り返るが、すぐにまた暖炉の方に向きなおしてしまう。
彼女はゆっくりと腕時計を見る。
時刻は〈2:53〉。
前回、赤い部屋のシーンで〈腕〉が言っていた「2…5…3…何度も何度も繰り返す」というメッセージと一致している。
壁の奥から、ジジジジ……という電気的な音が聞こえる。
●サウスダコタのどこかの路上
猛スピードで疾走する黒クーパー。
彼は本来、2時53分にブラックロッジへ戻され、入れかわりにクーパーが現実世界に戻れるはずだった。
しかし、黒クーパーの企てによって、その段取りが阻止されたみたいだ。
クーパーが帰還することはほんとうに叶わなくなったのだろうか?
●どこかの部屋
さっきの女がクーパーに語りかける。言葉は赤い部屋の住人のごとく、逆回転ボイスだ。
「あなたがそこに辿り着くとき、あなたはもうそこにいるでしょう(When you get there…you will already be there)
壁についた金庫の扉のようなものを注目するクーパー。これがなんらかの役割を果たしそうだ。
ただ、クーパーがそこに近づこうとすると、電流が流れ、クーパーは一定の距離から前に進めない。
●サウスダコタのどこかの路上
黒クーパーにも異変が起きている。からだがグラグラし、視界がぼやけ、運転している車の挙動もおかしい。
●どこかの部屋
クーパーは電流のショックに耐えながら、前へ進もうとしている。
女がまた語りかける。
「急いだほうがいい! わたしのママが来る!(You’d better hurry…my mother’s coming)」
全力を振り絞って、前進しようとするクーパー。金庫の扉のように見えたものが徐々に発光し、その正体が判明する。
大きなコンセント!
クーパーは頭からコンセントのソケットに吸い込まれ、どこかへ運ばれていく。
なぜか靴だけは通らないみたいで、穴の手前で脱げて、コンセントの下にポロッと落ちる(笑)。
●サウスダコタのどこかの路上
ブラックロッジに連れ去られまいと抵抗する黒クーパーだったが、車が制御不能になり、激しく横転。リンカーンは大破して路肩に停車する。
ダッシュボードの時計はちょうど2時53分を指している。
壊れた車のなかで嘔吐をこらえる黒クーパー。割れたフロントガラスの向こうに、一瞬、ブラックロッジの赤いカーテンが見える。
●どこかの新興住宅地
また見覚えのない場所が出てきた。
じつに殺風景な住宅地で、大きな看板が立っている。
看板の文字は〈RANCHO ROSA estate〉。
第1話冒頭で触れたプロダクションネーム”ダブル・R”と同名だ。
ここは〈RANCHO ROSA estate〉が開発している新興住宅地ってなのだろう。
そのうちの住宅の一軒の内部、若い全裸の黒人女性(クレジットによるとジェイドという名前のようだ)がベッドで中年男性と喋っている。男が女に金を払っているので娼婦のようだ。
男の顔はクーパーそっくり。しかし、やけにパンチの効いた70年代風の髪型、小太りの体格をしている。
演じているのは、もちろんカイル・マクラクランその人である。
ジェイドは彼のことを〈ダギー〉と呼ぶ。ドッペルゲンガーがもうひとり?
彼女はダギーの腕を心配している。左手がなにやら痺れて動かないらしいのだ。
ダギーの指がアップになると。左手の薬指に指輪が見える。
あのふくろうの文様が入った緑色の指輪だ。なぜ彼が?
テレサ・バンクスやローラ・パーマーといった、かつてこの指輪の持ち主たちはすべて死んだ。
この指輪に触れただけで、デズモンド捜査官(劇場版に出てきたクリス・アイザック演じるFBI捜査官)もどこかに姿を消した。
指輪に近づいたものは、すべからく皆、こちら側の世界にいられないのだ。
そういえば、劇場版のなかで、テレサ・バンクスの同僚だった女性が「テレサは麻薬の打ち過ぎで左腕がしびれていた」というセリフも出てきた。
これだけ条件が揃っているのだから、まもなくこのダギーもブラックロッジ行きは間違いないだろう。
……と思った矢先、ダギーが急に苦しみ始める。
浴室でシャワーを浴びているジェイドに助けを求めようと、床を匍匐前進していくが、ドアを開けることさえままならない。
ダギーの視界にゆっくりとあの赤いカーテンがオーバーラップする。
そして絨毯のうえに激しく嘔吐した瞬間、稲光のような音が鳴りひびき、ダギーの姿は消滅する。
●サウスダコタのどこかの路上
いっぽう、横転したリンカーンの車内にいる黒クーパーも嘔吐。今夜はゲロ祭り。
ひびだらけのフロントガラス越しに、赤いカーテンがゆらゆらと動き、ソファにぼんやりとした表情で腰掛けているダギーが見える。
黒クーパーの嘔吐は止まらない。指の間から大量の吐瀉物があふれ出す。
吐瀉物の正体はきっと〈ガルモンボジーア〉だろう。
ガルモンボジーアとは、劇場版で小人が解説していた苦痛の象徴。コーンクリームスープの形をしている。
ボブがそれを彼が目をつけた人間にふるまっている。
ガルモンボジーアは第2話の解説でも触れた、劇場版に出てくる悪いヤツラ大集合のシーン(29分30秒あたり)で、銀の食器に大量に盛られていた。同じく第2話のダイナーシーンでは黒クーパーもコーンクリームスープを食べていた。
黒クーパーは自分の身代わりに、ダギーという〈そっくりさん〉を、フクロウの指輪を使ってブラックロッジに送り込み、こちらの世界に居座ろうとしているのだろうか?
そういや、テレビ版の最終回で、ボブとクーパー(ドッペルゲンガー)は仲良く高笑いしてた。
このへんの道具や段取りは、ひょっとしたらボブが用意しているのかもしれない。
●赤い部屋
カウチに座っているダギー。目の前に片腕の男マイクが現れる。
ダギーは自分の身に何が起きたのかわからないので、キョトンとしている。
片腕の男は「誰かが君を何らかの目的で作ったのだ」そして「その目的は達成されたのだ」とダギーに宣告する。
すると、ダギーのからだはみるみる萎んでいき、小さくなった手から指輪が床に落ちる。
そして、頭が小さな爆発音とともに消滅し、黒い煙が上がる。
このあとも言葉じゃ説明が追いつかない、へんてこなメタモルフォーゼが次々と起きたあとで、ダギーは消滅してしまう。
カウチの上に残されたのは金色の小さな玉(パチンコ球サイズ)だけ。
片腕の男はふくろうの指輪と、その金色の玉を拾い上げて回収する。このふたつはワンセットで使うものなのだろうか? よくわからない。
●どこかの新興住宅地
壁のコンセントが光り、中からは黒い煙が噴き出す。煙はどんどん形を変えてクーパーの姿になる。
よくわかんないけど、とにかく25年ぶりにクーパーが現世に帰還したのだ。おめでとう、クーパー!
もちろん靴は脱げちゃったんで、履いていない。
右の靴下のつま先が破れて、穴が開いている(笑)。
さっきまで浴室にいたジェイドが身支度を整えて現れる。
ルックスが激変(黒スーツ姿、髪もすっかり短くなっている)しているのだが、ジェイドは床に倒れている男について、ダギーだと信じて疑っていない。
絨毯の上にゲロ(ガルモンボジーア)が落ちてることも、さして気に留めない。
そのあと、ジェイドに手を引かれてクーパーが家の中から出てくるのだが、あきらかに彼の様子はおかしい。
ジェイドに話しかけられてもまったく無反応だし、動きもロボットのようだ。
その佇まいは、何年か前に話題になった、具合がわるいままNHKの街ブラ番組に出演したときの加藤茶を髣髴とさせる(この喩えはわかる人だけわかればいい)。
ジェイドはダギーの車のキーを探そうと、ダギー/クーパーの背広のポケットをまさぐる。
すると車の鍵ではなく、なぜか〈グレート・ノーザン・ホテル〉のルームキーが出てきた。
ルームナンバーは〈315〉。
そういえば〈3〉と〈15〉って、紫の部屋のコンセントに表示されていた文字板「15」と「3」の組み合わせに符合している。
他にも気になる点がある。
ダギー/クーパーとジェイドのいる住宅街の通りが〈シカモア通り〉という名前だった。
シカモアは樹木の名前。ブラックロッジの入口である〈輪〉のまわりに生えている。
すなわち、この土地の周辺がブラックロッジと似たような役割を果たしている場所なのだろうか?
ちなみにダギーは正体不明の殺し屋二人組に命を狙われているみたいだ。
このへんはまったく説明的なセリフも描写も無かったので、今のところ事情がわからない。
とにかく、ちょっとした偶然でダギーは仕留められずに済む。
あと、ダギーとジェイドがシケこんでた住宅の前に、ジャンキーの母親と小さな男の子が住んでいる。母親はどっからどう見てもイケナイ錠剤をジャック・ダニエルズで胃に流し込んでいる。
このシーン、意味があるのかなんなのか、伏線だかなんだかよくわからないけど、えらく尺を取って見せる(笑)。この親子が現時点ではどういう働きをする人たちなのかはまったく不明。
●サウスダコタの路上
大破した黒クーパーの車をハイウェイパトロールが発見する。車内を検分した隊員が車内の異臭で卒倒する。そんなにすごい臭いなのね(笑)。
でもダギーが吐いたとき、一緒にいたジェイドは平気そうだった。ということは、黒クーパーが吐いたのはガルモンボジーアとは違う、別の何かなのかも。
●ツイン・ピークス保安官事務所
ホークが会議室のドアにこんな札をぶら下げる。
ドーナツの写真とDISTURBの文字。つまり〈DO NOT DISTURB〉と〈DONUT DISTURB〉をかけたダジャレ。流行るかなあ、これ(笑)。
さっそくこの小道具はファンの心をつかんでいて、テレビ局の公式ショップでは、マグカップ、ポスター、Tシャツなどの柄になって販売中。
さて、会議室にはアンディとルーシーも座っている。目の前のテーブルにはさまざまな遺留品が並べられていて、ホークのルーツと関係あるものが紛失していないか、みんなで探すことになっていた。
だが、さっそくアンディが話の腰を折る。
アンディ「ここにある物の中に無くなった物はなさそうだよ」
ホーク「無くなったものがここにあるはずないだろう」
捜査はかなり難航しそうな気配だ……。
●ジャコビーの家
ドクタージャコビーはピタゴラスイッチばりの仕掛けを使い、5本のスコップを効率よく金色に塗装している。
この金色のスコップの使途は不明。
●シルバー・ムスタング・カジノ
ジェイドが車でダギー/クーパーをカジノホテルに連れてくる。
要するにクーパーがいる場所もラスベガスだったのだ。なんとなく話がつながってきた。
ジェイドはダギー/クーパーに5ドル渡して、そこへ置き去りにする。
彼はジェイドがくれた金を元手に、見よう見まねでカジノに挑戦する。
しかし、クーパーには特殊能力が備わっていて、大当たりが出そうなマシンの上が光る。
光の中にはなぜか赤い部屋が見える。
「ハローーーーー!」というへんてこな掛け声とともに彼がスロットを引くと、100パーセント確実に大当たりが出る(笑)。
ここぞとばかりに荒稼ぎするダギー/クーパー。彼は自分が何をしているか、まったく理解していないようだが。
このカジノのシーンも愉快なんだけど、なぜかとにかく長くてしつこい(笑)。
●FBI フィラデルフィア支部
新キャラクターの捜査官タミーが登場。
タミーに扮するのはリンチお気に入りの女性ミュージシャン、クリスタ・ベルだ。
タミーはゴードン(リンチ御大)とアルバート(ミゲル・フェラー)にニューヨークでバカップルが殺された事件について報告中。
モニターには彼らの遺体が映しだされる。WOWOWがまたモノクロに加工してしまってるので詳細はよく見えないが、首から上がすっかり無くなっている様子。
常駐していたはずの警備員も、やっぱり消えてしまったらしい。
で、さらなるタミーの報告によると、カメラで記録されていたのは動画ではなく、写真だったようだ。
そのうちの数カットにぼやけた〈何か〉が映ってたらしい。つまり、ガラスを突き破って出てきたあいつのことだけど、記録はたった一枚の写真のみだそうだ。
あんな何十台もカメラを並べ、24時間体制で記録してたのがスチルだなんて、まったくもって腑に落ちない。
3人がわいわい話しているところへ、コール宛にクーパーの件で誰かから電話がかかってくる。
会議室からわざわざ自室へ移動し、電話を受けるゴードン。
ゴードンの部屋には、奇妙なきのこ雲が写った巨大な写真パネル、そしてフランツ・カフカの肖像写真が飾られている。
電話はサウスダコタのブラックヒルからだった。
ということは、ダギー/クーパーのことではなく、黒クーパーが警察に捕まったことを報告する電話だった。
ゴードンたちは明朝一番にブラックヒルへ向かい、クーパーと会うことに決める。
アルバートだけでなく、タミーにも同行するよう命じる。
かなり興奮した様子のゴードンは退室。あとに残されたアルバートがタミーにぼやく。
「存在の不可解な力は実に謎めいている……精神安定剤が必要だ」
●ロードハウス
第3話のエンディングもロードハウスから。エピソードごとに違ったゲストミュージシャンが登場し、彼らの演奏で締めるのが今回のシリーズのお決まりになるようだ。
今宵の出演バンドはザ・カクタス・ブロッサムズ。
ザ・カクタス・ブロッサムズは、ミネソタ出身のペイジ・バーカム、ジャック・トーレイによるデュオ。
2012年にセルフタイトルの自主制作盤、2013年に同じく自主制作でライブ盤『Live At The Turf Club』を相次いで発表。
そして2016年1月、彼らの地元ミネソタのレーベル”Red House Records”からファーストアルバム『You’ re dreaming』をリリースしている。
ぼくは最初の自主制作盤と最新アルバムを手に入れて聴いてみたけれど、前者がよりオーセンティックな、ストレートアヘッドなカントリー・アルバムであるのに対し、『You’ re dreaming』のほうは、カントリーをベースにしながら、より幅広いサウンドに変貌し、エヴァリー・ブラザース・スタイルのハーモニーにも磨きがかかっている。ちなみに最新アルバムのプロデューサーを務めているのは、ロックンロール、ロカビリー、R&Bなどをこよなく愛するシカゴ出身のミュージシャン、JDマクファーソン。
まだそれほど有名とは言えない新人バンドをどうやって発掘したのかわからない。
だが、さすがは耳利きのリンチである。素晴らしいバンドだ。
彼らが演奏した曲「Mississippi」も『You’ re dreaming』に収録されている。
ちなみに歌い出しの歌詞はこんな感じ。
俺たちは海へと下っていく/M-l-S-S-l-S-S-l-P-P/黄色と茶色の太陽を俺は見る/太陽はどんな街にも沈んでいく
俺のエンジェルが歌いかける/髪は濡れ、薄茶色のガウンを着た彼女はどこかの岸で俺を待っていて/波の音の歌を口ずさんでいる
川岸に打ち上げられた町一番の美女の遺体から始まったドラマのエンディングに完璧な選曲と言えるだろう。
これまで以上にシュールで、言語化しにくいシーンが目白押しだった第3回。
というわけで、またまた過去最高の文字数を更新。
特に冒頭部分は文字で描写しづらいシュールなシーンがオンパレードだったし、例の〈2時53分〉前後に起きるアクションシーンはカットがめまぐるしく変わるので、書き起こすのにとにかく骨が折れました。
また、文中で紹介したマヤ・デレンやマーティン・アーノルドを髣髴とさせるような実験映像の手法を、テレビドラマの演出に取り込んで提供するというのもリンチの得意とするところだ。見ていて、ほんとうにワクワクさせられたなあ。
エンドクレジットを読んではじめて、裕木奈江の役名が〈Naido〉であることがわかりました。
そして、〈Naido〉のあとに出てきた腕時計の女が、ローラと共にレオたちと一緒にいて、リーランド/ボブに殺されかけた女子高生ロネットを演じていた女優(フィービー・オーガスティン)というのも判明。
ただ、フィービーが演じていた役は、クレジットでは〈American Girl〉になっていたので、ロネットと同一人物かどうかは定かではありません。
それにしても〈Naido〉ってどういう意味なんだろう?
あと、すでに亡くなった役者がふたりも出演しています。
ブリッグス少佐役のドン・S・デイヴィス、そしてアルバート役のミゲル・フェラー。
特にドン・S・デイヴィスは2008年に亡くなっているので、あのシーンをどうやって作ったのか、とても気になってます。
また、アルバート役のミゲル・フェラーは撮影後の今年1月に亡くなったばかり。
喉頭がんを兼ねてから患っていたらしいので、ほんとうに死力を振り絞っての出演だったに違いありません。
ちなみにミゲルの母親はローズマリー・クルーニー。従兄弟はあのジョージ・クルーニー。
閉鎖的な田舎町が舞台の連ドラを制作。はたまた老人の役者を多数出演させたドラマを作り、その撮影中にキャストが実際に亡くなって───といえば、倉本聰をどうしても思い出してしまいますね(笑)。
この人も連ドラ時代の『北の国から』でUFO騒動を描いたり、2002年に放映された最終章『遺言』で締めくくったはずの黒板家のその後をいまだに妄想し、書き続けている。それによれば、正吉一家が震災前に福島へ転居していて津波で亡くなった。純はガレキ撤去のバイトをしているのだそう。時折それらを小説化したり、インタビューで明らかにしているんだけど、彼もまたリンチばりにぶっとんだクリエイターのひとりだとぼくは思っています。
この『ツイン・ピークス』だけでなく、『スター・ウォーズ』や『ブレードランナー』さえ復活する昨今ですから、いつか何らかの形で『北の国から』の新作も……と、夢見ています。
25年後となると2027年か……。うーむ。