残すところあと一本という状態で、まだ全貌が見えないというのはそれだけで偉業ではないだろうか。異形のクリーチャーや残酷な殺人鬼とかではなく、底が知れないクリエイターの頭のなかのほうがよっぽど怖い(笑)。
●メイフェア・ホテル
ゴードンが自分の銃を見つめながら、めずらしく反省中。
「わたしはどうしても撃つことができなかった」
「歳のせいでヤワになったんですよ」と皮肉っぽくアルバートが言う。しかし、心のなかではきっとゴードンを心配しているだろう。
タミー、アルバート、ゴードンの3人は赤ワインの注がれたグラスを掲げて、FBIに乾杯を捧げる。
ゴードンが告白する。
「アルバートに対してさえ25年間隠していたことがあるんだ。わたしやクーパーにブリッグス少佐が姿を消す前『ある存在を発見した』と報告してきた。その存在とは〈究極的な負の力〉(=An Extreme Negative Force)だ。かつては〈ジャオデイ〉(=Jowday)と呼ばれていた。時間が経つにつれ、言い方は変化して〈ジュディ〉(=Judy)となった。クーパーとわたしと少佐はジュディを探す計画を立てた。だがブリッグス少佐の身に何かが起きた。そのあとクーパーにも起きた。フィリップ・ジェフリーズは少なくとも通常の感覚において存在していない(At Least Not In The Normal Sense)が、彼もまた「わたしたちと同じものを探している」と言い残し、何年も前に姿を消してしまった。わたしと最後にクーパーが会ったとき彼はこう言った。『もし、わたしが他のみんなと同じように姿を消したら、どんな手を使っても、わたしを探してほしい。わたしはひとつの石で2羽の鳥を殺すつもりなんだ』と。そして今〈二人のクーパー〉という問題がある。つい最近、情報屋のレイ・モンローという男から謎めいたメッセージが届いた。『刑務所に入っていたクーパーがブリッグス少佐が残した〈座標〉を探している〉』というものだ。隠しごとをしたことを許してくれよ、アルバート。実際のところ、この件が適切に進展しているかはわからない。でもクーパーからかならずこの件で連絡が来るはずだ」
ゴードン=リンチ、脅威の長台詞。カンペをチラチラ見てるみたいだったけど立派(笑)。
そのときゴードンにFBIラスヴェガス支局のランドールから電話が。
「ダギー・ジョーンズが病院で見つかったのですが、すでにベッドはもぬけの殻。消息不明です」
「マルクス兄弟の映画か?」 皮肉が止まらない今日のアルバート。
ブッシュネルが病室に戻ってくる。
「電話の相手はゴードン・コールですか?」
クーパーからゴードン宛に預かっていたというメッセージをブッシュネルが伝える。
〈わたしはトルーマン保安官の元へ向かうことにする。現在、ラスヴェガスの時間は2時53分。すべての数字を足す(2+3+5)と完了の数字(=A Number of Completion)、つまり10になる〉
ゴードンはブッシュネルに礼を言う。そして、電話を切るやいなや叫ぶ。
「ダギーがクーパー? どういうことだ!」
タミーのところにラスヴェガス支局が集めたダギー・ジョーンズに関する情報が届く。最近、ダギーの身の上に起きた出来事(車が爆発、殺し屋に狙われる、ギャングとみなされている男たち二人と行動を共にしている、コンセントにフォークを突っ込んで感電……)をゴードンに報告する。
「これはまちがいなく”ブルー・ローズ”だ。彼が向かっている場所にわれわれも行くぞ」とゴードンは宣言。
●ツイン・ピークス保安官事務所の地下牢
あんなに騒々しかったNaidoや酔っぱらいたちも寝静まっている。チャドはある計画を実行しようとするけれど、気配を察知したのか、酔っぱらいが目を覚ます。ふて寝するチャド。
●深夜の道路
夜の道を爆走している黒クーパー。電線がジリジリと騒がしい。
●ツイン・ピークス保安官事務所の地下牢
Naidoが苦しそうに鳴き始める。黒クーパーが徐々に近づいているためだろうか。ジェームズとフレディは彼女の様子を心配そうに見ている。
●グレート・ノーザン・ホテル
ベンのところに電話がかかってくる。ワイオミング州のジャクソンホール警察からだ。ジャクソンホールはちょうどサウスダコタからツイン・ピークスのあるワシントン州への途上にある街。つまり、ジェリーがほっつき歩いていた森はツイン・ピークスだと推測していたが、実際はかなり離れたワイオミングだった。いったいなぜだ? レイやフィリップスが黒クーパーをおびき寄せようとしていた場所をジェリーが何らかの形で知っていたのだろうか?
ベンにかかってきた警察の電話の内容は次のとおり。
「身分証不携帯の男を保護したのだが、あなたの弟だと名乗っている。また彼は『双眼鏡が人を殺した』とも言っているのだが……」
最後の言葉を聞き、納得したような顔つきでベンは答える。
「それはまちがいなくわたしの弟、ジェリー・ホーンです。彼は何か罪を犯しましたかね?」
「いいえ……ただ、われわれが保護したとき彼は全裸だったのでなにか服を送ってください」
●深夜の道路
まだ走っている黒クーパー。より一層大きな音で電線が騒いでいる。
黒クーパーは電線から究極的な負の力(An Extreme Negative Force)を充電しているのかもしれない。
●森
黒クーパーが乗っていたピックアップトラックがどこかの森のそばに乗り捨てられている。
すでに夜は明けて、あたりは明るくなっている。だが彼の姿は車の周囲にはない。
薄暗い森のなかをGPS端末を手に歩く黒クーパー。ダイアンから聞いた座標を元に、その場所をとうとう探しあてたのだろう。
周囲の雰囲気からして、Naidoをアンディやフランク・トルーマン保安官たちが発見したジャック・ラビット・パレス近くの場所だ。倒木も完全に一致している。黒クーパーがそこに近づくと、空中に例の〈渦〉が出現し、彼の姿が消滅する。
●消防士のいる劇場
第8話に出てきた消防士の劇場に黒クーパーは転送されている。
直方体の檻(=ニューヨークのガラスの箱を思い出させる)の中に捕らえられているようだ。向かって右側には巨大なブリッグス少佐の頭、正面の大きなスクリーンには先ほどの座標の場所が映しだされていて、消防士がそれを見つめている。
次にスクリーンに映ったのはパーマー家の正面玄関。消防士が空中をスワイプすると画像が次々と変わっていき、ツイン・ピークス保安官事務所も映る。
黒クーパーを閉じ込めてある檻がだんだん小さくなり、天井を這っている奇妙な形の金色の管(第8話でローラの入ったオーブが通過したチューブ)に吸い込まれる。黒クーパーはツイン・ピークス保安官事務所に転送される。
どうやら消防士は、このスクリーンでさまざまな地点を観察したり、〈渦〉を通して自分のところに誰かを召喚することができるみたいだ。しかし出来事に直接手を下すことはできないのかもしれない。
●ツイン・ピークス保安官事務所
黒クーパーは保安官事務所の目の前にあるパーキング・ロットに出現する。
「どうなってるんだ?」
彼にも事態が飲み込めていないらしい。
自分の車から大きなバスケットを下ろしていたアンディがクーパーに気づく。
「クーパー捜査官じゃないですか? ちょうどあなたの噂をみんなでしていたところなんですよ!」
「やあ、アンディ」 ほほ笑みを浮かべる黒クーパー。
●ツイン・ピークス保安官事務所の留置所
留置所のなかのNaidoが落ち着きを失っている。何かを伝えようと躍起なのだが、鳥の鳴き声のような音しか発することができないので、誰も意味が理解できない。
そんな中、チャドを〈監視〉している酔っぱらいが眠りに落ちてしまう。ふたたび計画を実行するチャド。こうなることを予期していたのか、靴のカカトに細工して合鍵を隠していた。
●ツイン・ピークス保安官事務所
アンディが黒クーパーを所内に案内している。
数十年ぶりにクーパーが戻ってきたことをルーシーも大喜びする。
アンディはフランク・トルーマン保安官に彼を紹介する。フランクは黒クーパーを彼のオフィスへ案内する。
ここでふとアンディが表情を変える。
消防士のところに送られたとき自分が見た───保安官事務所の廊下で硬直しているルーシー、後ろからアンディが彼女の肩を抱き、その後、走りだす───というビジョンを思い出したのだ。
●ツイン・ピークス保安官事務所の地下牢
チャドが合鍵を使って、牢屋から脱出。隣の部屋に侵入。
Naidoは相変わらず猫に狙われた小鳥のように檻の中で騒いでいる。
酔っぱらいもそれに気づいて目を覚まし、連動するように騒ぎ始める。
チャドが先ほど侵入したのは武器庫だった。ロッカーに入っていた銃や弾を盗み出す。この騒ぎに乗じて逃げ出すつもりのようだ。
●フランク・トルーマンのオフィス
黒クーパーに椅子をすすめたあと、アンディは質問する。
「コーヒーはいかがですか?」
「ありがとう、でも結構だ」と黒クーパー。
本物のクーパーなら、勧められたコーヒーを断ったりは絶対にしないはずなのだが……。
怪訝な表情をするアンディ。
「わかりました。ではホークを呼んできますね」 アンディは小走りでオフィスを出て行く。
そして、受付にいたルーシーに電話を指差しながら声をかける。
「それは〈重要〉だぞ、とても〈重要〉だぞ!」
その直後、ルーシーのデスクの電話が鳴る。ラスヴェガスからツイン・ピークスに向かっている途中のクーパーからだ。
アンディはそのことを予知していたのだ!
●ツイン・ピークス保安官事務所の留置所
ホークを探して、アンディが留置所に入ってくる。
チャドは銃を構えながら、ゆっくりアンディの方へ近づいていく。
「お前は腰抜けだ、アンディ」
フレディの牢の前をチャドが通過しようとしたとき、フレディがゴム手袋の拳で牢屋の扉をおもいっきりパンチ。
扉が弾かれるように開き、チャドの顔面を直撃。床に倒れこむチャド。
アンディはノビているチャドを手錠で拘束する。
●フランク・トルーマンのオフィス
黒クーパーとフランクが差し向かいで座り、二人きりになっている。
フランクが口を開く。
「クーパーなのか?」
「ああ、そうだよ」 黒クーパーは微笑みながら答える。
「なぜツイン・ピークスへ戻ってきた?」
「やり残したことがあるからさ」
そのとき、フランクのデスクの上の電話が光る。ルーシーの声がインターホンから聞こえる。
「保安官、2番にお電話です」
ルーシーはたいてい外からの電話を1番でつないでいたと思うのだが、今日は2番だ。
いつもの電話とは違うということをフランクに知らせたかったのかもしれないし、もう一人のクーパーからかかってきている、という意味かもしれない。
伝言を聞いておくように……と伝えるフランクだが、ルーシーは食い下がる。
「とても〈重要〉な電話なんです」
フランクは電話を取る。
「やあ、ハリー。クーパーだ。今、ちょうどツイン・ピークスに入ったところだよ。コーヒーはあるかね?」
クーパーの乗った車の窓から、あの懐かしい〈WELCOME TO TWIN PEAKS : Pupulation 51201〉の看板が見える。
フランクは電話の相手が〈正しいクーパー〉であることを直感する。
なぜなら彼はブリッグス少佐からのメモによって〈二人のクーパー〉の存在を知っているからだ。
第9話で〈COOPER/COOPER〉のメモがブリッグスの残した金属製のロケットから発見された。
そのことについて、第14話で彼自らが電話でゴードンに報告していた。
デスクを挟んで無言で睨み合う黒クーパーとフランク。
二人がほぼ同時に懐から銃を取り出す。
一瞬だけ早く黒クーパーが銃を発射。
しかし、彼の放った弾丸はフランクの帽子をかすめただけ。
いっぽう黒クーパーは床にもんどりうって倒れた。
カウチの背後に、なんと銃を構えたルーシーの姿が!
悪のパワーをフルに発揮して、数々のピンチをしのいできた黒クーパーにとどめをさしたのが、アンディ&ルーシー夫妻という展開。最高だ。
フランクがクーパーに黒クーパーが死んだことを告げる。
「彼の死体に絶対に触らないように」とクーパーは指示を出す。
階上の銃声を耳にしたアンディが、Naido、ジェームズ、フレディの3人をつれて、オフィスに連れてくる(酔っぱらいはいない)。
アンディを目にしたルーシーが嬉しそうな顔で言う。
「アンディ、わたしやっと携帯電話のことが理解できたわ」
ホークも銃を片手に飛んでくるが、倒れている黒クーパーを見て驚く。
フランクはクーパーから「死体へ触るな」と指示が出ていることをホークに告げる。
ホークは「だが、あれ(倒れている死体のこと)がクーパーじゃないか」と反論する。
フランクは一言で説明できないため、困ったような顔で「いや、そうじゃないんだ」と言うのが精一杯。
昼間なのに部屋が突然、明かりを失う。
黒クーパーの死体のまわりだけ光が眩しく明滅し、ウッドマンが三人出現。
またも復活のイニシエーションが始まる。
目の前で行われている不気味な儀式に言葉を失っているフランクやルーシーたち。
しかし、この儀式。心霊手術のように傷口あたりを触るのはわかるとして、顔に血を塗りたくるのはなんの意味があるんだろう?
そうこうしてるうちにクーパーの乗った車が保安官事務所へ到着。
外も薄暗くなっている。ウッドマンたちが儀式を行っている間は、室内だけでなく、周辺もかなり広い範囲で暗くなるのだ。
玄関で待ち構えていたアンディの案内(彼はなぜクーパーが来ることを知っていたのか?)でオフィスへ飛び込んでいくクーパー。
しかし、彼もしばし手をこまねいている。ウッドマンのイニシエーションを見るのは初めてなのかもしれない。
ウッドマンたちが姿を消すと、黒クーパーのおなかの中から真っ黒なオーブが現れ、部屋の中に浮かび上がる。オーブの表面にはもちろんボブの顔が映る。
オーブがクーパーに襲いかかる。クーパーは床にへたり込んでなんとか攻撃をかわす。
Naidoが何か指示を出すようにフレディのほうを向いている。一歩前に踏み出すフレディ。
クーパーが立ち上がって声をかける。「君がフレディか?」「はい、そうです」
フレディが叫ぶ。「これがぼくの運命だ」
攻撃の矛先をフレディに変えるボブ・オーブ。最初はやられ放題だったフレディが勇気を振り絞ってゴム手袋の拳に力を込め、オーブを殴りつける。オーブは悲鳴を上げながら床に落下。とどめとばかりにフレディが拳をもう一発叩きつけると、床に穴が空き、中から炎が吹き出した。
火の力で息を吹き返したように、オーブがゆっくりとまた浮かび上がり、再度フレディへ猛烈な攻撃をしかける。
「フレディ、立て!」クーパーが檄を飛ばす。
顔面を血で染めながらなんとか立ち上がるフレディを見て、ボブ・オーブが言う。「お前を俺の死体袋の中に入れてやる」
まっすぐ自分の方に飛んできたボブ・オーブに強烈なストレートをフレディがお見舞いすると、オーブは断末魔の叫び声を上げながら粉々に割れる。
粉々になった破片が天井へと舞い上がって、消えていった。
「ぼく、やったんだね?」
「ああ、君はやったよ、フレディ」クーパーが笑顔で讃える。
床に開いたはずの穴はいつの間にか塞がっている。
クーパーが黒クーパーの躯に近づいて、左手の薬指にふくろうの指輪をはめる。
すると白い煙をうっすらと漂わせながら、遺体は跡形もなく消えた。
そして、赤い部屋の床に指輪が転がる。
クーパーがゴードンに言いのこしていた〈ひとつの石で2羽の鳥を殺す〉って言葉は、黒クーパーとボブをフレディの拳で倒す、という解釈でよいのだろうか?
いつのまにかすべてを見守っていたミッチャム兄弟が思わず声を漏らす。 「こりゃ孫に語ってやらなきゃな」
クーパーがフランクに「グレート・ノーザン・ホテル315号室の鍵を持っているだろう?」と聞く。
「なぜそれを知っているんだ?」とフランクが問い返すと、クーパーはこともなげに「ブリッグス少佐から聞いたんだ」と答える。
フランクはベンから預かっていた鍵をクーパーに手渡す。
やれやれ一体何が起きてるんだ、という顔つきでフランクが首を振っていると、保安官事務所の前のパーキングロットにゴードンたちの乗ったFBIのトラックが2台入ってくる。
オフィスにNaidoがいることに今ごろ気づくクーパー。
彼女の顔をじっと見つめているクーパーの表情が画面に焼き付く(このあともドラマは進行していくが、このクーパーの顔がずっと画面のなかに残像として映しだされ続ける!)。
ボビーもオフィスにやってきた。「一体何が起きたんだ?」と驚いている。
制服姿のボビーを見て、クーパーは言う。
「君の父上はこうなることをご存知だった。ブリッグス少佐はある情報を入手し、ゴードン・コールと一緒に調査した……おっと、彼がちょうど到着したぞ」
「クープ!」ゴードンが驚きの声を上げる。
「今日、われわれはここに集った。いくつかのことがこれから変わっていくだろう」と説教する牧師のように言い放つクーパー。
ホークは目を細め、その言葉に同意するようにうなづく。
第15話のマーガレットの最後のメッセージ「死は終わりではなく、変化するだけ」という最後の言葉を思い出していたに違いない。
クーパーは「過去が未来を決定(Dictate)するのだ」とも付け加える。
キャンディーズが大量のサンドイッチを銀のお盆に載せてオフィスへ運んでくる。
「たくさん作っておいてよかったわ」とキャンディ。
突然、クーパーへ駆け寄るNaido。二人が手のひらと手のひらを合わせる。
彼女の顔のまわりに黒煙が立ち上り、顔の中に穴が開く。穴の中に赤い部屋が見える。
赤い部屋の中央に大きな割れ目のある奇怪な実のようなものが出現し、その割れ目からダイアンの顔が覗く。
すると、保安官事務所にいたはずのNaidoが赤い髪をしたダイアンに変わっている。
笑みをこぼすクーパー。二人は抱き合いキスを交わす。
ダイアンの指先には黒と白のマニキュア(赤い部屋の床のカラーリング)が一本ずつ交互に塗られている(このキスをきっかけに、しばらくクーパーの顔の残像が消える)。
「ダイアン、全部覚えているのか?」
「ええ、覚えているわ」
二人は振り返って壁の時計を見る。時計の針は〈2時53分〉を示しているが、長針が52分と53分の間を行きつ戻りつしている(残像が復活)。
そもそもクーパーが覚醒し、ブッシュネルに託したメモには〈ラスヴェガスは今2時53分〉と書いてあった。それが事実で、彼らが一泊二日で移動したわけじゃなければ(もしくは壁の時計が壊れてる)時間が進んでないのは、本来おかしいはず。
で、この何度も繰り返す2時53分というのは第2話の元小人であり、現シカモアの木が言っていた「2…5…3…何度も何度も繰り返す」という台詞がすでに予言している。
やがて〈残像〉が口を開く。
「わたしたちは夢のなかで生きている……(We Live Inside a Dream……)」
その声は逆回転ではなく、テープの回転数を落として再生したような間延びした低音だ。
クーパーはそこにいる全員に語りかけた。
「また、君たちに会えればと思う。君たち全員にね」
クーパーにとって彼らは力強い協力者たちだった。
部屋の中がふたたび闇に包まれる。
「ゴードン!」
「クープ!」
●グレート・ノーザン・ホテルの地下
クーパー、ダイアン、ゴードンの3人が闇の中を歩いている。
グレート・ノーザン・ホテルの地下ボイラー室……ジェームズがチェックしていた音のするドアに近づく(残像が消えている)。
クーパーはドアのロックは315号室の鍵で外し、ゴードンとダイアンに「ここからひとりで行くから、この場に残るように」と言う。
ダイアンとハグし、ゴードンと握手を交わす。
「君のことは忘れないぞ」なんだか哀しいことを言うゴードン。
ドアの中に入り、クーパーは振り向き「カーテンコールで会おう」と二人に言う。
顔を見合わせるダイアンとゴードンを残し、クーパーの姿は消える。
部屋の中で彼を待っていたのは片腕の男マイク。
「過去の中にある未来の闇を通して、魔術師は見たいと願う。ふたつの世界の狭間でひとつの声によって唱えられる。火よ、我と共に歩め(Through the darkness of future past, the magician longs to see. One chants out between two worlds, fire walk with me”)」
放電の力で、また別の場所へ移動するふたり。
●ダッチマン
コンビニエンスストアの二階へと階段を上がってやってきたマイクとクーパー。以前この階段にいたウッドマンの姿が消えている。きっとボブを倒したからだろう。
ただし、トンガリ鼻のジャンピングマンは消滅していないようで、ウロウロしている。
ダッチマンのある中庭に出たふたり。鍵開け係(Bosomy Woman)の助けなしにフィリップの待つ部屋へ入る。
もちろんボウイの姿ではなく、ボイラーのままだ。
クーパー「フィリップ?」
フィリップ「明確に頼む」
クーパー「日付は1989年2月23日だ」
フィリップ「見つけてやろう。このなかは滑りやすいからな。また会えてうれしいよ、クーパー。ゴードンにもよろしく伝えておいてくれ。と言っても、彼が覚えているのは〈非公式ヴァージョン〉のわたしだがな。さて、ここできみは〈ジュディ〉を見つけることになるだろう」
ジュディはずっと女性の名前だと思っていたけれど、冒頭でゴードンが解説したように〈究極的な負の力(An Extreme Negative Force)〉のことを指す。台風に名前が付いているようなもんだろうか?
フィリップ「たぶん誰かが中にいるだろう。で、君がこれをわたしに求めたのか?」
フィリップから吐き出されている湯気の中からフクロウ洞窟(Owl Cave)のマークが現れた。それが空中でバラバラに分解され、今度は縦に並んだふたつの菱形へ変化し、最終的に数字の8、または無限大(∞)に変化する。
8(∞)の中はチューブ状になっていて、黒い玉が移動していく。オーブが消防士の劇場の中にある金色の管の中を通ることを思い出させる。
フィリップが「もう行っていい」と言うと、マイクが呪文を唱える。
「エレクトリシティ!」
放電の力でまた別の場所へ移動するクーパー。
●1989年2月23日のツイン・ピークス
ジェームズがローラを迎えに来て、バイクで何処かへ出かける。それを窓から見ているリーランド。劇場版の112分40秒あたりからのフッテージが流用されている。カラーからモノクロに色が変換され、草陰からジェームズとローラのやりとりを見ているクーパーや、クーパーの目線からのショットがインサートされる(ローラたちを遠目に撮ったシーンなどはローラ役のシェリル・リーにブロンドのかつらをかぶせて新たに撮影したように見える)。
ローラがジェームズと熱烈なキスをしたあと、森のなかに何かを見つけ、絶叫する。
劇場版ではローラが何を見たのかははっきり示されない。ローラはクスリでハイになっていたので、観客の多くは、およそ目に見えない何かを見たのだろう、くらいに解釈していたはずだ。
だが、実際は草陰に潜んでいたクーパーとローラの目が合い、彼女が絶叫していたわけだ。
おそらくローラはクーパーの姿をボブと見間違えたのだろう。
25年の時を飛び越えるアクロバット的伏線回収劇(笑)。
ふたたび劇場版からの映像。
ジェームズと町へ戻ってきたローラだったが、途中でバイクから飛び降り、ひとり森のなかへ姿を消す。
このあと劇場版ではレオ・ジョンソン、ジャック・ルノー、ロネット・ポラスキーと落ち合い、4人で向かった小屋の中で惨劇が起こる。
しかし、今回は違う。
森の途中でクーパーがローラを待ち受けている。
「あなたとは夢のなかで会ったことがあるわ」
そう呟いたローラの手を取るクーパー。
「ローラ・パーマーのテーマ」がBGMで流れ出す。
ビニールシートに包まれて、岸辺に打ち上げられたローラ・パーマーの死体が映る(『序章』のオープニング)。
ところが、その光景から遺体が消える。
ふたたび森のなかで手をつなぐローラとクーパーの姿が。
モノクロだった画面に徐々に色が戻っていく。
「どこへ行くの?」
「家へ帰るんだ」
口紅を引くジョシー・パッカードの映像。ピートが妻のキャサリンに「釣りへ行く」と声をかける。これも『序章』の冒頭のシーンだ。
だが、ローラの遺体が流れ着いていた場所には何もない。
ピートはそのままのんきに釣りに出かけ、突堤のような場所で釣り糸を垂らし始める。
ピート役のジャック・ナンスも亡くなっているため、パイロット版に無いこのカットなどは背丈の似た代役によって撮影されているのだろう。
死んだデヴィッド・ボウイの代わりがボイラーなんだから、これくらい訳ないのだ。
ちなみに今エピソードはジャック・ナンスに捧げられている。
というわけで、過去は未来によって書き換えられた。
少なくとも、ローラ殺害事件は回避されたようだ。
●現在のパーマー邸のリヴィングルーム
灰皿に大量の吸い殻が溜まっている以外、部屋の中はずいぶん片付いている。
サイドテーブルの上には、ハイスクールの女王時代のローラの写真が飾られている。
部屋の奥からはセーラ・パーマーの大きな呻き声が聞こえてくる。
やがてセーラが部屋に戻ってきて、写真立てを手に取ると、床に叩きつけた。
そして、酒瓶を割り、尖った先でローラの写真に何度も何度も突き立てる……。
●ツイン・ピークスの森
クーパーはローラの手を引きながら歩いている。シカモアの木と〈輪〉のある、例の場所のあたりだ。
闇を抜けて、明るい場所へ出ようとしていたそのとき、貝殻をこすりあわせたような音……第1話で消防士が蓄音機でクーパーに聞かせたあの音が聞こえる。
すると、手をつないでいたはずのローラの姿が消え、大きな翼が羽ばたくような音と耳をつんざくようなローラの絶叫が聞こえる。
まるで巨大なフクロウがローラを掴んで飛び立ってしまったかのようだ。
おそらくはジュディがギリギリのところで、またもローラを捕まえたにちがいない。
途方に暮れたクーパーは森の木々を見つめている。
あの音が聞こえたら気をつけろよ、という警告の意味で、消防士はクーパーに聞かせていたのかもしれない。
森の木々に赤いカーテンがゆっくりとオーバーラップしていく。
そして聞き覚えのあるシンセサイザーの音色が聞こえてくる。
ジュディ・クルーズの「The World Spins」だ。
この展開にはすべてのツイン・ピークスファンが涙せずにいられないだろう。
彼女がこれを歌ったのは前シリーズの第14章。
第二シーズンでは数少ないリンチの監督作だ。
ローラの日記が発見されたり、セーラ・パーマーが床を這いずりまわっているとき、白い馬のビジョンを見たり……と、今振り返ればけっこう重要なエピソードだ。
丸太おばさんが「ロードハウスにフクロウが現れる」と予言し、クーパーとハリー・トルーマンは彼女といっしょにロードハウスへ向かう。
この日、出演していたのがジュリー・クルーズだった。
名曲「Rocking Back Inside My Heart」に続いて演奏されたのが、この「The World Spins」だ。
クーパーが目を閉じてこの曲に耳を傾けていると、ステージ上からジュリーの姿が消え、代わりに巨人が出現する。
巨人は「今、また何かが起きてる」とクーパーに語りかける。
自宅のドレッシングルームで身支度をしているリーランド。鏡に映っているのはボブ。
ここで初めて視聴者にリーランド=ボブがはっきりと示された。
そしてローラそっくりのいとこマデリーンにリーランド=ボブが襲いかかる。
巨人が姿を消すと、ふたたびジュリーが「The World Spins」を歌い始める。
カウンターで酒を飲んでいたグレート・ノーザン・ホテルのヨボヨボの老人スタッフがクーパーのところに寄ってきて、「誠に遺憾でございます」と告げる。
同じくカウンターにいたボビーも何かを察したような顔つきになり、ボックス席でジェームズと飲んでいたダナも泣き始める。
ローラに続いて、マデリーンの〈純潔〉までも汚されたことを、彼らは無意識に共有する。
マデリーンがなぜローラにそっくりでなければならなかったのか……もっと端的に言えば、なぜマデリーンをシェリル・リーが二役で演じなくてはいけなかったのか、と25年前にすごく違和感を覚えていた。
ただ、この新作で掘り下げられたドッペルゲンガーやトゥルパといった〈分身〉という存在の原型が、ローラとマデリーンを同じ女優で撮ることに繋がっているのかもしれない。
最近はCGなどでいくらでも修正ができるけれど、昔の映画なんかでは、ブロンドと黒髪のかつらをつけかえることで演じ分けたりしていた。
リンチはそういう古典風の演出を好む人(その発展形が『マルホランド・ドライブ』)だし、今回の〈ふたりのクーパー〉もメイクアップや服装の違い、あとはカイル・マクラクランの熱演で演じ分けた。
以前には無かったCGも駆使していたが、こういうクラシックな演出を残したことも新作の魅力になっていたように思う。
くりかえし説明してきたけれど、今回の『ツイン・ピークス The Return』はまとめて一本の作品として撮影され、18本のドラマとして切り分けられて放送されています。
しかし、今回のエピソードなんかを見てると、前シリーズの30本、劇場版、劇場版の削除シーンを集めた『Missing Pieces』、マーク・フロストが書いた本などをすべてひっくるめた〈ツイン・ピークス・サーガ〉が有機的に再構成され、『過去が未来を決定(Dictate)』する壮大な作品になっていることがわかります。
もちろんそれだけでなく、リンチ自身が過去に受けたさまざまな芸術的影響、瞑想で得られたインスピレーション、現場での〈必然性のある偶然〉なんかに加え、フロストによる緻密な裏付け&構成作業がそれを下支えしています。
新シリーズが制作されると知ったとき、まさかローラ事件を根本的に解決しようとは、誰も想像してなかったんじゃないでしょうかね(笑)。
前回分の冒頭に『ブレードランナー』の新作のことをチラッと書きましたが、そのときは『ツイン・ピークス』が今週こんな展開になるとは思ってなかったし。
ただ、国内外を含めてさまざまな人たちが、この新作について解説をしているブログや呟きなどを時々読むのですが、夢/現実、過去/未来、実在/非実在といった要素をはっきり線引きして見ている人たちは、リンチやフロストが描こうとしている世界観をうまく飲み込めていないような気がします。
たとえばフィリップ・ジェフリーズには公式ヴァージョン/非公式ヴァージョンのどちらかが本物で、どちらかがニセモノという区別は無いんですよね。ダイアンとNaidoの関係も同じ。紅茶も緑茶も烏龍茶も、おなじツバキ科のカメリアシネンシスという木の葉っぱから出来ていて、色や味は違えど、発酵の度合いによって区別されるだけの、単なる〈ヴァージョン〉違い。それと同じ。
もし、ローラが助かったヴァージョンと助かってないヴァージョンがツイン・ピークスの世界に両方存在しても、結局、巨人の言うように「また何かが起きる」のです。
そういう意味において、ローラ・パーマー事件というのは永遠に解決しないんでしょうね。
ともかく来週でラスト。1989年に発生したローラ殺害事件が解決したことで、クーパーが今回お別れを告げた仲間たちとはお別れになってしまったかもしれません。
長年見続けてきた旧シリーズのメンバーはもちろん、新シリーズで登場したキャラクターたちにも愛着を感じてきていたので、ほんとに寂しいです。